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医療介護専門誌「ヘルスケア・レストラン 2012年5月号」特集 今の“備え”で患者さんを守れますか?

ヘルスケア・レストラン 2012年5月号


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《備え》長期保存が出来るフリーズドライ食品を嚥下困難食に加工して提供する
医療法人崇徳会 長岡西病院(新潟県長岡市)


病院内のほかの備蓄と異なり、非常食には〝賞味期限〟があることが、栄養部門を悩ませている。 賞味期限前に通常献立に活用する作業は容易ではない。
長岡西病院の管理栄養士たちは、その煩雑さを解消するために新たな策を考えた。

主菜=レトルト食品は心苦しい思いがあった


アンケートQ1
(※原文ママ:アンケートについては雑誌「ヘルスケアレストラン2012年5月号」のバックナンバーをご確認下さい)で、
7割の病院・施設が「はい」と回答したように、長岡西病院(240床、うち一般病棟115床/療養病棟・回復期リハビリテーション病棟125床) でも、東日本震災後に非常食を見直した。
栄養管理室主任で室長代理を務める管理栄養士の守山寿子さんは、
「もし、当院が同じように被災をしたら、食事は?」とすぐに考えを巡らせたという。
同院では、これまでレトルト食品や缶詰を中心に2日分の非常食を備蓄してきた。
しかし今回の惨状を知り、「現状の体制では非常食のすべてを運び出して逃げることは不可能で、大災害には耐えられない非現実的な備蓄内容だと感じた」という。
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非常食を備蓄するうえでは、ほかにも問題を抱えていた。
同院の給食部門は直営で、サイクルメニューを展開しているが、賞味期限がそれほど長くないさまざまなレトルト食品を、期限前に日常の献立に組み込まなければならない。 たとえば、レトルト食品の肉じゃがの賞味期限が切れそうになると、「レトルト食品を温めただけで患者さまに提供するのは心苦しい・・・」との思いから、
通常の献立にある「肉じゃが」の代用として使うことはせず、副菜として小鉢に少量ずつ提供する、などの工夫をしていた。
副菜に使うことで、一度に多くの量を使いきれず、迫り来る賞味期限と献立に組み込む期間を把握しながら、メニュー構成を考えなければならなかった。 それだけ工夫をしても、賞味期限が来るごとに使いきれない数パックが生じて廃棄処分をせざるをえず、3人いる管理栄養士は年に数回、賞味期限による献立の変更に時間を取られていたのだった。

25年分のコスト計算で新規に非常食を採用


非常食の体制を見直す段階で、森山さんは「サバイバル®フーズ」の存在を知った。
これは、アメリカの食品メーカー、オレゴンフリーズドライ社のもので、25年間の長期保存が可能なフリーズドライ食品とクラッカーだ。フリーズドライ食品には、野菜シチューや洋風とり雑炊などがあり、NASAの宇宙食としても採用されている。
「長期保存が可能な点に加え、缶を開けてそのまま食べられること、料理をするときは水だけでも復元できること、軽量で持ち運びが容易なことなどから、すばらしい商品だと思い、すぐにでも導入したい気持ちでいっぱいでした。
しかし、当院の患者さまで経口摂取できる方のうちの約40%が嚥下困難食の対象で、そのような方に提供できなければ、採用は難しいだろうと思いました」(森山さん)
そこで森山さんは、日本の販売元である(株)セイエンタプライズに交渉してサンプル品を提供してもらい、嚥下困難食に加工できるかどうかを検証した。
まずは、フリーズドライ食品を水や湯で復元してから形状を変化させようとしたが、電気・ガス・水道が使えない状況での大量の嚥下困難食づくりを想定し、復元前に加工したほうが効率がよいだろうと考えを改めた。さっそくフリーズドライ食品を手でつぶせるかを試してみたが、にんじんやグリーンピースなどがかたくて無理だった。
次に、ビニール袋に入れて底の広いボトルですりつぶしてみたところ、粉々にすることができた。
じゃがいもを砕いたことにより、水を足すと、自然ととろみが付いた。これに、適宜とろみ剤を加えて粘度をつければ、嚥下困難食としても提供できる、という見通しがついたのだ。
「濃度については今後の検討課題であり、だれでも嚥下困難食に復元できるように、加える水分量を調整していきます。欲を言えば、こうした粉末状で商品化されるといいのですが・・・」(森山さん)
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2012年度の予算を決める際に、災害時備蓄用食品としてサバイバル®フーズの購入を提案した。
その際、病院の幹部には、現状の備蓄を(廃棄処分となるロスを含めて)25年間続けた場合と、サバイバル®フーズの購入を提案した。
その際、病院の幹部には、現状の備蓄を(廃棄処分となるロスを含めて)25年間続けた場合と、サバイバル®フーズを購入した場合の金額を比較したものを資料として添付した。
結果、「思いつくようでだれにも思いつかない、新商品の開発にも匹敵する画期的な活用方法だ」と評価され、4月からの新年度を待たずして購入が決定し、3月中には納品に至った。

非常食があるからと安心してはいけない


さっそく、サバイバル®フーズを中心とした「災害時の献立」を作成した(表)。
ただし、「どれほどよい非常食を用意していても、それらが使えないほどの災害が発生したり、限られた人しか提供方法がわからなかったりしたら、無駄になってしまう可能性も十分に考えられます。
非常食はあくまで非常事態に備えているだけなので、それぞれに適応した提供方法について、栄養士が真剣になって考えておくこと。
その考えるプロセスこそが、いざというときに役立つのではないでしょうか」と、森山さんは気を引き締める。
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今のところ、震災初日は、厨房で調理済みのものや納入された食材を優先して使い、2・3日目に災害時の献立を繰り返す。その後は、残っている食材や届けられた支援物資などを使ってサバイバル®フーズにアレンジを加えていく―――、と想定している。
そのために、「サバイバル®フーズに何を加えると栄養価をアップできそうか?」ということを、管理栄養士同士で話しあったり、調理師に加工するアイデアを考えてもらったりしている。
さらなる検討課題は、保管場所だ。東日本大震災以降、食品の備蓄を最上階や別棟に考えている病院・施設は少ないようだ。
しかし森山さんは、「365日食事を提供している栄養部門は、非常時に食料とともに避難するべき」と考えている。病院内での防災訓練などをとおして、適切な場所を確保したいという。
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