東京都江東区有明にある「東京臨海広域防災公園」。首都直下地震が発生した際の支援拠点(基幹的広域防災拠点)であり、政府と地方公共団体による緊急災害現地対策本部の候補地であるオペレーションルームもあります。普段は市民に開放されていて、園内にある「そなエリア東京」では震災直後を模した街を歩く東京直下72hツアーを実施(参加無料)。公園を設立した目的や役割について、副センター長の澤善裕さんと、広報担当の石川緑さんに話を伺いました。

Q. 「東京臨海広域防災公園」が設立された背景を教えてください

東京臨海広域防災公園

きっかけは1995年の阪神・淡路大震災です。同様の直下型地震が首都圏で発生した場合に備えて、複数都県市の同時被災時に広域支援を行う場所が求められました。

そこで都市再生プロジェクト(第一次決定)として、東京臨海部の有明地区に支援拠点を整備する計画が立てられました。大地震発生時には緊急災害現地対策本部としての役割を果たします。

Q.なぜ有明が選ばれたのですか?

南関東が入るように円を描くと、有明はその中心に位置し、各地に出向いて支援を行うのに適しています。公園の北側には高速湾岸線と湾岸道路も通り車両で千葉県や神奈川県方面に移動しやすく、内陸部へのアクセスにも優れています。さらに、船舶による物資の受け入れが可能です。

また、公園周辺にはタワーマンションなどが建っていますが、震災時に園内のヘリポートが使えるようヘリコプターの進路が確保されています。このように、陸・海・空のあらゆる手段を利用できる点も有明が選ばれた理由です。

首都圏には、本公園と合わせて活動する場として神奈川県川崎市の東扇島にも同様の拠点を設け、役割を分担しています。また川崎の物資輸送拠点からは海上の航行はもちろん、多摩川と荒川には防災船着場や緊急用船着場が作られており、上流までさかのぼれます。道路輸送をおぎない多くの物資が運べ、被災者支援を行う予定です。向こうは物資のため、こちらは支援と救助、情報収集のために用いられます。

Q.「そなエリア東京」について教えてください

そなエリア

支援拠点は災害時に重要な役割を果たす一方、どんなに整備を進めても瞬時に全ての方を支援・救助することはできません。並行して、市民に防災力を高める体験や学習の機会を提供することも大切であり、そのための施設として2010年7月に開館しました。

ここでのメインは「被災の体験」です。館内には、ほぼ実物大の震災後の市街地が作り込まれていて、照明や音声を用いて臨場感たっぷりに「大地震直後の街」が演出されています。そこを自らの足で歩き「信号が消えている」「電線がショートしている」「落下物が頭上に迫る」といった状況でどのように避難するのかを考えてもらう場です。

タブレットを使ったクイズもあり、子どもから大人まで楽しめることを重視しました。遊びの要素を取り入れることで、ここでの体験を記憶していただき、家族間などで「すごかったね。地震でけがをしないように部屋を片付けないと。備蓄食料はあったけ?」といった会話をしてほしいものです。さらに、実際に被災した際には「自分にはこんなことができる」と、行動に移せるようになることも願っています。

Q.施設内で目にする「72」という数字にはどのような意味があるのでしょうか?

被災体験の名称は「東京直下72hTOUR」で、この数字は大地震発生後に自力で生き抜いてほしい72時間(3日間)を意味します。

まず、自治体や政府の支援が届くにはこの程度の時間を要すると考えられています。災害発生後は街から食品や飲み物が消え、流通も止まるでしょう。体制が整うまでの72時間、どうか自力で生きられるよう備えてください。

また、この時間内は皆さんに「自分は真っ先に助けてもらわなくても大丈夫」という状態になってほしいです。そうすれば、より危険な状態にある方を優先して救助できるからです。

Q.その他に体験できることを教えてください

コロナ禍で縮小傾向ですが、水消火器、毛布担架、ジャッキを使った重量物の撤去もイベントの開催時には体験できます。また、園内には「かまどベンチ」があり、使い方のデモンストレーションもイベントの際に行われています。

このベンチは全国の公園で設置が増えているので、ぜひ一度確認してみてください。風を防ぎ、薪や炭があれば炊き出しに役立ちます。火の起こし方を身に付け、いざという時に活用してほしいです。

Q.建物自体の地震対策はいかがでしょうか?

地震対策

政府の緊急災害現地対策本部の候補地である以上、大地震後にも機能しなければなりません。建物を守るため、鉛ダンパーと積層ゴムアイソレータ(共に揺れを吸収する仕組み)を組み合わせた免震構造を採用しています。また、建物の安定を図るため長さ約30mの杭を打ち込んでいて、安定した地盤まで達しています。

東日本大震災では、こうした設備のおかげで揺れが緩やかに長周期化しました。館内で机や椅子が激しく移動することはありませんでした。とはいえ建物自体は6cmほど動きました。当時の記録を館内2階で紹介しています。

なお、建物内には2つの発電装置があり、専用の燃料タンクが地下に埋設されています。200名弱の支援要員が1週間ほど連続して活動できる、十分な食料も備蓄されています。

Q.災害への備えで私たちが見落としがちなことは何ですか?

例えば、4人家族のそれぞれが一日に5回トイレを使うと計算すると、4人×5回で20回分の非常用トイレが必要です。しかも水道の復旧までに10日間かかるとしたら、200回分を用意しなければならないのです。

なおトイレのごみは、行政が収集するまで自宅で保管してください。ルールを破って街の衛生状態が悪化すると、体調不良者が増える可能性があります。すると、全国への転院も含めて多数のけが人に対応している病院に余計な負担を掛けてしまうことになります。まして、コロナ禍が続いている可能性も否定できません。

におい対策の塩素や消毒剤も含め、今のうちに非常用トイレをそろえましょう。家庭での防災は足し算と掛け算で答えが出せるので、その他の備品も個数や量が適切かどうか確認してみてください。

Q.最後に読者へのメッセージをお願いします

メッセージ

ぜひ、当施設で「被災した街」を体験してください。いつか本当に起きることとして捉え、防災を学んで備蓄品をそろえ、可能であれば誰かを助けるための行動力も身に付けてほしいものです。

また、地域の避難訓練やAED体験会に参加するのも良いでしょう。救助の技術は災害時以外にも役立ちます。自分の隣で大切な人が倒れた時に対応できるように、と具体的にイメージして参加することが大切です。

さらに、家族が離れている時の被災にも目を向けましょう。両親共に職場から帰宅できない場合、子どもはどう行動するのでしょうか。「近所の公民館は子どもだけでも受け入れ可能か」「知人は預かってくれるか」「その知人と一緒に避難場所に向かうのか」などを想像して家族で話しておくと、災害後の再会への時間短縮につながり、探す手間も少なくなります。

一方でテレワークが進む今、企業は従業員宅の防災も考える必要があります。例えば家具の固定に補助金を出したりすれば、結果的にその地域の防災につながるので、ぜひ検討していただければと思います。

「そなエリア東京」の体験ツアーに参加してみました!

そなエリア体験

インタビューの後、取材チームも「そなエリア東京」の体験学習ツアー「東京直下72h TOUR」に参加しました。

スタート地点は、どこにでもあるような駅ビルの10階。エレベーターで下に向かっていると、いきなり震度7の地震に見舞われ、中に閉じ込められてしまいます(コロナ禍では一部省略)。

何とか脱出した先は、停電して薄暗く、しかも狭くて段ボール箱などが積まれた従業員通路。避難誘導灯や非常放送のアナウンスを頼りに出口を目指します。

そして待っていたのは、被災して姿を変えた街。ほぼ実物大のジオラマですが、すぐ横のラーメン屋では割りばしに火が燃え移り、前方ではトラックが電柱に衝突していて、液状化現象でマンホールが突き出ているなどリアルに作られています。さらに余震が繰り返し、緊急地震速報も鳴り続ける中を前へと進みます。

崩れた家屋からは助けを呼ぶ声が聞こえ、周囲からは火の手が迫っています。ここで皆さんは「1人で救助を試みる」「周りにいる人の協力を得ようと大声を出す」「諦める」など、どのような行動をとるでしょうか……こうした、地震発生後72時間の判断力や生存力を身に付けてもらうためのツアーでした。

取材の最後に澤さんが「昨日と同じ今日が続いていくのが平和な日常です。そして昨日と同じ今日にならない時に、それでも明日につなぐために準備をしておくことが防災です」とおっしゃっていました。機会を見つけて「東京直下72hTOUR」に参加し、いつか来る首都直下地震への準備を改めて始めてはいかがでしょうか。